アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「BIOS電子版」No.48

栃木市のおいしい地下水を守りたい…市民の声を聞き、環境問題を考える――「クリーンな栃木市をつくる会」会長 高際澄雄さん

声を上げる「クリーンな栃木市をつくる会」高際澄雄会長

栃木市の市民団体「クリーンな栃木市をつくる会」の高際澄雄会長は地元の地下水の問題に強い危機感を抱き、栃木市の豊かな環境を守らなければならないと声を上げている。栃木市の水道水は地下水を利用しており、「おいしい水」として市民の評価も高い。水道水を100%地下水で賄う自治体は全国的にも珍しく、豊かな自然環境がそれを支えている。将来にわたって地下水を守るためには、今、地域の自然環境を守ることが重要だと訴えている。

「クリーンな栃木市をつくる会」会長、高際澄雄さん

県庁堀を流れる豊かで清らかな水

高際さんは英文学者で宇都宮大名誉教授。一方で、地元・栃木市の環境問題にも取り組んでいる。自宅にも近い渡良瀬遊水地の自然を愛し、遊水地を日々観察し、「谷中村の遺跡を守る会」の会長としても活動している。足尾鉱毒事件を追った映画『鉱毒悲歌』の続編『鉱毒悲歌そして今』の制作にも関わった。

そして今、強い危機感を抱いているのが、地下水で市民の飲み水、生活用水を賄っている栃木市の水道水の問題だ。

栃木中心部は市街地を水量豊かな巴波川(うずまがわ)が流れ、県庁堀が流れる。その水路の透明な水の中を多くの鯉が群れ泳ぎ、中心市街地とは思えない情緒を醸し出している。

県庁堀は明治維新後、この地にあった栃木県庁の唯一の遺構。現在の県立栃木高校や市立栃木中央小学校、旧栃木町役場などの敷地を長方形で囲む約1キロの水路だ。1884年(明治16年)、栃木県庁は宇都宮に移り、栃木町に県庁があったのは廃藩置県後の13年にすぎないが、栃木市の歴史が感じられる史跡なのだ。

そして地上に見える表流水だけでなく、豊かな地下水こそが栃木市中心部の特徴である。 「母の実家も市中心部の県庁堀沿いにあり、昔は井戸の水、そして水道水になってからも地下水を利用しているので、いい水を飲んで利用してきた。本当においしい水だった」

地下水のおいしい水はお茶の味も変える。高際さんの実感だ。

その母の実家のすぐ近くに県庁堀の水源があるという。高際さんの母校・栃木高校の北側で、そこはこんこんと水が湧き出る様子が分かる。地下水を取水ポンプで揚水しているようで、地下水の豊かさを誇っている。

栃木市の豊かな地下水

メガソーラー、渡良瀬遊水地…環境への思い

1月30日、日曜日の昼過ぎ、高際さんは夫婦で集会に顔を出した。栃木市中心部、キョクトウとちぎ蔵の街楽習館で開かれた「思川開発事業と栃木市の水道水を考える会」の会合だった。

高際さんは短い時間で栃木市の水に対する思いを訴えた。

「栃木市では水道水を100%地下水で賄い、おいしい水道水を飲んできた。妻に言わせると、お茶の味が2段階上がるという。それだけ水の力は大きい。栃木高校の北側に県庁堀の水源があり、今もこんこんと水が湧き出る。栃木市には豊かな自然があり、大事にしていかなければならない。栃木市の地下水を守っていきたいと思いますので、ぜひともご協力をお願いします」

会場を後にした高際さんは、取材陣に県庁堀を案内し、水問題の重要性を訴えた。市民生活に直結する問題は地域の環境にもつながっているという。

続いて薗部浄水場(栃木市薗部町)に向かう。地下水をくみ上げ、市民の生活を支える施設の中でも栃木市最大規模の浄水場である。

薗部浄水場のそばを流れる永野川では今、改良工事が進む。2019年(令和元年)10月の台風19号では永野川が氾濫、ポンプ室が水没する被害を受けた。想定を超えた災害がたびたび起こる昨今、その安全性は市の重要課題でもある。

環境問題への思いは思い入れの強い渡良瀬遊水地にも及ぶ。旧藤岡町で生まれ育ち、渡良瀬遊水地は子供のころから見てきた場所だ。

「渡良瀬遊水地には豊かな自然が残っているが、昔に比べて湿地が貧弱になってきている。回復させたい」

東京ドーム約30個分に相当する広大な山林を伐採する計画。地元からは自然景観を破壊し、里山の価値を損なうと反対の声が上がっている。高際さんも、山林の斜面を伐採することは山林の保水力を弱め、洪水などの災害が起きやすくなることを懸念している。

「身のすくむような思いがしますよ。完成したら、恐ろしいことになる。あれだけの土地を伐採し、そこに台風が来たら、斜面が崩れるかもしれないし、雨水が一気に斜面を流れ落ちて、ふもとの河川に流れ込む。洪水を誘発する危険も大きい」

環境に配慮したエネルギーを導入しようとして、環境破壊につながるという矛盾。メガソーラー計画は全国各地で見直しの動きも出ている。

会合にて

改良工事中の永野川

市民の声を反映させる政治が必要

高際さんが考える栃木市の問題は環境問題だけではない。「市民の声を反映させる、市民による政治が必要」と指摘する。現在の市政は市民の声をくみ上げることなく、市議会の意見が反映されていないとの思いがある。

1月27日に宇都宮地裁で判断が下された岩舟総合運動公園内サッカー専用スタジアムの固定資産税、公園使用料を免除していた問題も顕著な例として挙げている。スタジアムは、建設した日本理化工業所の子会社が運営する関東サッカーリーグ1部の栃木シティFCのホーム施設となっており、市は経済効果などの公益性を理由に固定資産税、公園使用料を免除していたが、この「栃木市サッカースタジアム住民訴訟」では、免除差し止めを求めた住民側の主張が通り、市側の全面敗訴となった。

税負担の公平性の観点からみても、固定資産税、公園使用料を減免する強い公益性、公益上の理由があるとは認められないというのが裁判所の判断だ。

「市民の声、議会の声が反映されない市政は、是正していかなければならない」

高際さんら「クリーンな栃木市をつくる会」でも、この問題を通して市政を厳しくウオッチしてきた。

また、栃木市は文教都市として発展しなければならないという問題意識も持つ。多くの高校が集中し、学生・生徒が学びやすい場をつくることが必要であり、また、学び直しをしたいと思う人のための環境整備も必要だと考えている。


高際 澄雄(たかぎわ・すみお)

高際 澄雄(たかぎわ・すみお)

1949年、栃木県赤麻村(現栃木市藤岡町)出身。東京教育大大学院修士課程修了。宇都宮大学国際学部教授として、長年、英米文学を研究し、教育現場に携わった。大学退職後も文化、環境関係で積極的に活動しており、谷中村の遺跡を守る会会長、田中正造の関連遺跡と渡良瀬遊水地の日本遺産登録を目指す発起人代表、立松和平記念館(文庫)設立委員会代表などを務めた。また、ドキュメンタリー映画『鉱毒悲歌そして今』に出演。現在、「鉱毒悲歌制作委員会」委員、「クリーンな栃木市をつくる会」会長。