アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「BIOS電子版」No.55

歌集『旅路遥かに』 国内外歩いて詠んだ518首 岡村良子さん

20年の集大成、47都道府県と海外11カ国で短歌


栃木県内で長く中学校教員として勤め、退職後に始めた短歌や押し花絵画を続けている岡村良子さんが歌集『旅路遥かに』(アートセンターサカモト)を出版した。短歌を始めてから47都道府県全てと海外11カ国を旅行。情景を詠み、叙情溢れるさまざまな短歌518首を収録している。表紙は桜の花びらを使った自作の押し花絵画で華やかに彩り、約20年間の旅の思い出が詰まった歌集となった。旅や花、作品に対する思いなどを岡村さんに聞いた。

旅の短歌 情景と叙情と…20年間の集大成

岡村さんは教員退職後の2003年、知人の誘いで「窓日短歌会」に入会し、短歌作りをスタートした。毎月10首ほどの作品を送稿。「窓日新人賞」受賞後は歌評などの執筆も依頼され、会の月刊誌『窓日』に連載記事も掲載した。この間、制作した短歌は大学ノート12冊分、計3000首ほどに上る。

今年(2024年)3月に出版した『旅路遥かに』では、旅をテーマにした作品から厳選した518首を掲載。国内外の名所の風景や感動、また、旅先での何気ない心の動きが詠み込まれたバラエティーに富んだ作品が並んだ。


「旅の短歌を県ごとに編集したというのは私も見たことはないですね。全国にはあるのかもしれませんが。47都道府県全てと海外の国々で詠んだ歌を載せました。それがこの歌集の特徴になったと思います」


制作順とは関係なく、北海道から沖縄の順に並べたが、1首目は奇しくも短歌を作り始めた頃、北海道の礼文島を詠んだ作品だ。そして、宮城県鳴子峡の紅葉を豪華絢爛な絵巻物と詠み、知る人ぞ知る花の名所・京の原谷苑の桜に固唾を呑む、と絶景への感動を表現する。また、祭りの躍動感や、その土地に関わる歴史・文化にアプローチし、ときには名所に向かう期待感など題材は自由に広がっていく。

もちろん、栃木県内各地で詠んだ歌も数多く、岡村さんが大好きだという桜も日光の輪王寺の金剛桜や田母沢御用邸のしだれ桜、宇都宮の孝子桜、天平の丘の淡墨桜などが登場する。

新型コロナウイルス感染拡大で旅行できない時期もあったが、今後も親しい友人たちと出かけ、短歌を作り続けたいという。


「コロナで出かけられなかった時期はもったいない時間だなと思いますね。若いうちの3年、4年は取り返しもつきますが、この年齢になると大きいですよ。国内でも行きたい所はいくらでもあります。仲間も、元気なうちはあちこち行こうと言っていますし、私もそうありたいと思っています」


旅と短歌への意欲はまだまだ衰えていない。

20歳で詩集出版 若い頃から文芸に親しむ

「窓日短歌会」に入会し、短歌を始めたのは60歳のときだが、岡村さんは若い頃から詩、俳句、随筆などの文芸に親しんできた。20歳で詩集を出し、成人式では応募した俳句が特選、詩と短歌も入選した。若い頃は現代詩に力を入れていて、本格的に短歌をやっていたわけではないが、成人式にちなむ作品として詩や俳句とともに短歌も出品し、見事入選した。

「詩、俳句、短歌と三つともやってきて、短歌は自分に合っていたと思います。俳句は季語を入れて〈五七五〉の17音の中にまとめ上げなければならないし、詩はそうした制約はないけれど、ある程度の長さの中にまとまりを作ります。短歌にも〈五七五七七〉の31音という制約があり、自分なりに技法も用いますが、一番ゆったりとした気持ちで作れます。心情だけを詠んでもいいし、情景だけを詠んでもいいし、もちろん両方詠み込めればなおいい。短歌はこれからも続けていけそうだと感じます。短歌は旅行との相性も良いですね」

在職時から文章を書くことは得意だった岡村さん。退職後の2003年には著作集も出版している。「窓日短歌会」では入会6年後に「窓日新人賞」、2014年には「窓日賞」を受賞。短歌の世界でもすぐに第一線で活躍するようになった。月刊誌『窓日』では、「サンルーム」で「桜紀行」を、「ことばあらかると」で「十二支」・「色彩」を取りあげるなど連載記事も任された。

「5分で読めてしまう文章でも、書くには時間がかかります。テーマに合う短歌を探し、さらに自分なりの考え、感じ方も書きます。有名な歌人の作品を紹介する手法もありますが、やはり、『窓日』に載った短歌を紹介した方が読者にも親しみがあると思い、ずっとそうやってきました」

2017年6月には夫に先立たれ、しばらくは旅行に行く気にもなれず、1年ほど挽歌ばかり作っていた時期があった。早朝、激痛を訴える夫の姿や、救急搬送されたときの不安な気持ちなどを詠んだ歌から始まって、夫を見送り、挽歌を100首ほど詠んだ。大きな人生の転機にも短歌は岡村さんに寄り添った。

桜に魅了され… 表紙は自作の押し花絵画

岡村さんは桜の花に魅了され、桜に関するグッズも数多く集めている。

今回の歌集『旅路遥かに』の表紙カバーは岡村さん自作の押し花絵画。表紙カバーは作品を撮影した写真だが、本物の花びらの表情がそこにあり、本書を手に取ったとき、花びらのかすかな厚み、立体感さえ感じられる。

岡村さんは短歌と同じ頃、押し花絵画を始めた。


「自分が手をかけて押し花から新しい作品が生まれます。世界に一つしかない作品と言っては大げさでしょうか。自分なりにデザインを考え、創造する喜びがあります。先生が親切に教えてくださり、押し花の本もありますが、私はあまりそれに囚われないで、好きなように作品を作っています。それは短歌も同じ。短歌も押し花絵画も創造ですよね。それに、短歌も押し花絵画も仲間は女性が多く、話も弾みます。お互いの作品が刺激にもなります」



押し花絵画は、生花を独自の方法で乾燥させ、その押し花を用いてデザインし、作品を完成させる。

同じ花を数多く押し花にすると、仲間と余った押し花を交換できる。また違った表情の花が加わり、作品の幅も広がる。花それぞれにいとしさを感じるそうだ。

短歌とともに20年。これまで100点以上の作品を制作してきた押し花絵画。新しいものができる喜び。これもやめられないという。

歌集『旅路遥かに』


書籍情報

・書籍名:歌集 旅路遥かに

・著 者:岡村良子

・住 所:〒321-0151 栃木県宇都宮市西川田町1063-16

・発 行:(有)アートセンターサカモト

・〒320-0012 栃木県宇都宮市山本1-7-17

・TEL : 028-621-7006 FAX : 028-621-7083

・ISBN 978-4-901165-34-1

・価格:1,980円(税込み)


プロフィール

岡村良子(おかむら・よしこ)

1943年、栃木県宇都宮市生まれ。

1964年、詩集『白い風景』出版。

1965年~2001年、栃木県内の公立中学校教員として勤務。

2003年、「窓日短歌会」に入会し、月刊誌『窓日』には作品のほかにも、連載記事など執筆。

2003年、著作集『追憶の風』出版。

2014年、窓日賞受賞。

2015年、日光東照宮400年式年大祭記念短歌下野新聞社賞受賞。

2023年から宇都宮市民芸術祭文芸部門、短歌の部の審査員も務めている。