アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「BIOS電子版」No.7

吹奏楽団「宇都宮音楽集団」と常任指揮者-鈴木 太志-

吹奏楽の楽しさを伝える

会場に緊張が走る。指揮者から鋭い視線と早口の言葉が飛ぶ。1小節が区切られ、何度も何度も何度も繰り返される……。完全性を求めて音を積み上げていくような宇都宮音楽集団の練習風景である。指導者は常任指揮者鈴木太志(すずきふとし)。武蔵野音楽大学器楽科卒、同大学研究科を修了し、さまざまなオーディションに合格して渡米も果たしている。ファゴット奏者、編曲者として活躍する傍ら、当楽団を率いて指導者としての手腕を発揮。吹奏楽コンクールで毎年、当楽団を上位入賞に導いている。

鈴木は宇都宮音楽集団の結成当初から、毎年恒例の定期演奏会の中で、演奏と語りで音楽を表現する『音楽物語』の脚本・演出も手がけていた。6月に宇都宮で開催された演奏会では、ヒット曲『トイレの神様』の世界を音楽物語で表現した。また、懐かしいCM映像に合わせて、日本中が耳にしたであろうお馴染みのCMのメロディーが奏でられる。宇都宮音楽集団の定期演奏会は、聴衆を自然に音楽の世界に引き込んでいく楽しい仕掛けが用意されていたのであった。

「音楽をよく知らない人にも足を運んでいただき、吹奏楽の楽しさを伝えたいからです」

朗読、映像を織り交ぜながら

宇都宮音楽集団は、大学生から50歳代まで世代を超えたメンバーで構成される。経験年数も違うし、入団後楽器を始めた初心者もいる。「共通するのは音楽が好きだということ。上手な演奏を目指すこと以前にみんなが一緒に演奏を楽しむことを大切にしている。メンバーの多くは、そこに魅かれてこの楽団に入ってきたはず」

定期演奏会の終わりに鈴木は「これからも音楽物語を続けていきます。よろしくお願いします」とあいさつした。宇都宮音楽集団にとって音楽物語は大切な試みだ。

「吹奏楽は音楽のなかでも特別なジャンルで、楽しむのは限られた人たちになってしまう。吹奏楽に興味のない人にも楽しんでもらうにはどうしたらいいのか、そのなかで考えたのが音楽物語や映像を使ったプログラムだった」

音楽物語は、聴衆を楽しませるだけではない。演奏のレベルアップのためにも重要なプログラムだ。「音楽物語は、“気持ちを音に乗せる”という演奏する上で大切な要素を勉強できる。この楽団は演奏技術という面ではいろんなレベルの集まりですが、どんなレベルであろうが、それぞれが物語に合った音を出そうと努力することで、いろんなことを学べる」

宇都宮音楽集団の結成は1990年。鈴木の楽団指導歴は20年を過ぎた。

「いまのメンバーが結婚して、子どもができて、親、子ども、孫の3世代が一緒に演奏するような組織になっていくことが、一番の理想です」

団員間の交流を深める中で「音楽集団のサウンド・アンサンブル」をつくりあげる

宇都宮音楽集団は、個々のプレイヤーのレベルを上げていくだけではなく、演奏活動やイベントを通じ、団員間の交流を深める中で「宇都宮音楽集団のサウンド・アンサンブル」を作っていくことを大切にしている。団員は約50名。結成当初の宇都宮大学管弦楽団の学生、OB・OG主体のバンドから、会社員、主婦、学生等、栃木県内を中心とした幅広い職種の社会人、学生からなる一般バンドに成長している。定期演奏会を中心に、依頼演奏や地域文化活動への参加、他の吹奏楽団との共演やジョイントコンサートを行っている。吹奏楽コンクールにも90年以来毎年連続で出場しており、栃木県大会で金賞を14回受賞し、東関東(関東)大会でも金賞を1回、銀賞を7回受賞している。

メンバーの想い

■団長・コンサートマスター 水内孝至(アルトサックス・高校教員)

「メンバーの経歴、年齢はさまざま。いろんな層の市民が入っているバンド。そういう意味で、一般の皆様に近い存在として地域の方々に身近に感じていただき一緒に音楽を楽しんでいただけるバンドです。依頼演奏が増えてきているので、地域に密着した活動ができてきているのかなと感じています。吹奏楽団ではなく音楽集団という名称にはいろんな音楽をやっている人たちと共演したいという思いがこめられています」

■事務局長 伊吹範之(トランペット・会社員)

「演奏がうまい人が揃っているというわけではなく、いろんな経歴の人たちが出来る限り時間をつくって練習に参加し、みんなでボトムアップしながらいい演奏をつくりあげていくという作業を毎年やっています。その積み重ねでお客さんに聴いていただく演奏をつくりあげているところが、この楽団の一番いいところです」

■清水理葉(パーカッション・医師)

「ふだん知り合えないような方々と知り合えたことがよかった。仕事が忙しいのですが、時間を見つけて練習に参加して、みんなが一つになるような演奏をしていきたい」

■益子愛理(トロンボーン・学生)

「演奏会に行き、自分もこの楽団で楽器を吹いてみたいと思いました。いろいろな職業の人たちとかかわることで、音楽以外にいろいろな経験することができます」

■寺井規哲(トロンボーン・会社員)

「学生時代からずっと体育会系で音楽はまったくの初心者でしたが、楽団で音楽を始めて生活ががらりと変わりました。会社と楽団の世界、2倍人生を楽しめます」

■関  恵(ユーフォニウム・中学校教員)

「結婚、出産、子育てと10数年のブランクを経て活動を再開しました。みんなと一緒に合奏をやる楽しさは、一人で楽器を吹いているときには味わえないものです」

■渡辺加衣(トランペット・学生)

「学生の楽団と比べて一般の楽団はメンバーの年齢層も幅広く、いろいろな人が一緒になって音楽をつくっていく楽しさがあります」

■斉藤みゆき(フルート・会社員)

「宇都宮に越してきて、吹奏楽を続けられる楽団を探していたときにこの楽団を知り、とてもフレンドリーに感じました。楽しみながら上達していけたらと思っています」

■森田ひとみ(クラリネット・保育士)

「初心者で入団して2年弱、いろいろな楽器と合奏するのが楽しい。勤め先の保育園の秋祭りで楽器の経験のある先生たちとちょっとしたステージをやることができました」

■茂木 博(テナーサックス・大学職員)

「自ら地域に出ていこうという動きが出てきました。地域の方々と一緒に演奏会やイベントを作りあげ吹奏楽の楽しさを伝えていく活動をしていければと思っています」