アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「電子版パリ通信」No.6

Paris plages(パリ・プラージュ/パリビーチ)とフランスの元カヤック選手-Rene Guerton【ルネ・ゲルトン】-海、河、運河は世界につながる道

パリ・プラージュ

10年前にパリ市長の提案でパリ・プラージュ(パリ・ビーチ)ができた。7、8月のヴァカンスに、経済的、身体的、また日程をずらしてヴァカンスをとる等の理由で、パリに残っている人たちが40パ-セント以上(世界的不況により、年々増えている)。そこでパリ市はパリにいながらヴァカンスを味わってもらおうと、特に子供たちにいかに「楽しい夏の思い出」を残すか相違工夫している。これは将来の人格形成に重要となるからであろう。

セーヌ右岸の自動車道路を歩行者天国にして、今年は、白い砂を5千トン以上入れて人工の素晴らしいビーチを作った。パリジャン、パリジェンヌだけではなく観光客(夏のパリは観光客で一杯)もここを訪れるのが流行のように押し寄せてきている。家族連れや年齢に関係なくさまざまな楽しみを盛り込んでいるが、水、砂、太陽があれば最高のビーチとなる。子どもたちのために、一日中楽しめる遊び場やアトラクションをたくさん用意した。草花、椰子の木も100本くらいは植えられている。ここは南仏! もちろん無料。ここから見るパリはまた別の顔である。私はフランス人の友人とパリ・プラージュで、何十年かぶりにお握りを作り、冷やした白ワインとともに美味しく食べて、ちょっとしたヴァカンスを楽しんだ。

パリ・プラージュのパンフレット

フランス人は遊びの天才

5年前からパリ19区にあるヴィレット湾(サンマルタン運河とウルク運河の間にある幅の広い船着場)でもパリ・プラ-ジュが始まった。ここの規模はセ-ヌ岸より小規模だが、何といってもこの湾を直接利用してあらゆる水上スポ-ツが楽しめることだ。ペダル舟、こぎ舟、マスト船、大きなビニ-ルの家、カヤック、タイコ船と水上で存分に遊べる。それぞれ年齢に応じて楽しむことができる。しかしこのために、沢山のプロの指導員、安全確保のためのガードマン、ポリス、救助隊員(陸地と水上)等が控えている。自由に楽しんでもらうために、市は安全確保のために大勢の人々を配置している。

7月21日から8月21日、8時から24時までの長時間も魅力。訪れた人にインタビューすると「なんてロマンチックで素晴らしいパリなんでしょう」と。昔ながらのガンゲットという夏の間の居酒屋風でダンスを楽しむ場所もあり、ルノアールの絵画を彷彿させるような懐かしいパリの雰囲気を存分に楽しめる。ここでコンサ-ト(クラシックもロックも)やタイシンの体操等もそれぞれ時間をうまく使って行っている。パリ・プラ-ジュを真似して他国でも同じように作っているとか……。パリでは過去にもこの様に工夫されたビーチが作られてきた。フランス人は「人生をいかに楽しく過ごすか」という遊びの天才か!

カヤックレース

カヤック選手ルネ・ゲルトン

パリ・プラ-ジュ、ヴィレットの遊び場の中でも花形の水上スポ-ツ。その指導員であるRene Guerton(ルネ・ゲルトン)にインタビューすることができた。私は毎朝ヴィレットからウルク運河を1時間くらいウォ-キングしているが、そのヴィレットの指導員のひとりがルネだった。ところがインタビューにはパリ市の許可が必要で何回かメ-ルでやり取りした。お役所仕事の上ヴァカンス中の代理のような何人かとの連絡がのらりくらりと続いたものだ。「あぁ、またいつものフランスのリズム、これではパリ・プラ-ジュが終わってしまう」と少しあせったが、パリ市から「パリ通信」への取材の許可が出てルネに正式に会うことができた。

「子どもたちが喜んで参加するのを見て、私たちも喜びを共有しています」と、意外にも穏やかな優しい声。

ルネ・ゲルトン。身長1m90cm、46歳。14歳の時ドイツ人のカヤックの専門家に出合い、自分のすすむ道を決めたという。ブローニュのカヤッククラブで腕を上げ、軍隊のスポ-ツ部でカヤック選手として鍛えた後、フランスの選手として活躍してきた。現在は学校やスポ-ツクラブなどで指導している。

「カヤックは、元々エスキモ-の使っていた船で、軽くて大波でひっくり返っても元に戻ります。身体と船がぴったりとくっつき、水よけ寒さよけにもなっていて、極寒のところでは最適な乗り物です」。

以前はアザラシの皮を張って作っていたのだが、動物保護などから今では化学繊維などを利用しているという。

「私たちの仕事は5月から10月くらいまでですが、それ以外の月は体力作りとカヤック用の身体のための筋肉トレーニングをしています。パリの次はハンガリーのブタペストに行って指導してきます。カヤックを教えることができることが何よりも嬉しいですね」。

私はフランスに約37年間住んでいて思うことは、海や河や運河に対する人々の関心度の高さである。これらは道であり重要な通商交通機関であり、かつては侵略路でもあった。毎年モーターショー同様シップショーがパリの大きな会場であり、買う客、そして夢を買う客であふれる。実は私もその中の一人である。

カヤックレース

プラージュで指導中のルネ

TOMOKO K. OBER(パリ在住/画家・ミレー友好協会パリ本部事務局長)

TOMOKO KAZAMA OBER(トモコ カザマ オベール)

TOMOKO KAZAMA OBER(トモコ カザマ オベール)

1975年に渡仏しパリに在住。76年、Henri・OBER氏と結婚、フランス国籍を取得。以降、フランスを中心にヨーロッパで創作活動を展開する。その間、78年~82年の5年間、夫の仕事の関係でナイジェリアに在住、大自然とアフリカ民族の文化のなかで独自の創作活動を行う。82年以降のパリ在住後もヨーロッパ、アメリカ、日本の各都市で作品を発表。現在、ミレー友好協会パリ本部事務局長。

主な受賞

93年、第14回Salon des Amis de Grez【現代絵画賞】受賞。94年、Les Amis de J.F .Millet au Carrousel du Louvre【フォンテンヌブロー市長賞】受賞。2000年、フランス・ジュンヌビリエ市2000年特別芸術展<現代芸術賞>受賞。日仏ミレー友好協会日本支部展(日本)招待作家として大阪市立美術館・富山市立美術館・名古屋市立美術館における展示会にて<最優秀審査賞>受賞。09年、モルドヴァ共和国ヴィエンナーレ・インターナショナル・オブ・モルドヴァにて<グランプリ(大賞)>受賞、共和国から受賞式典・晩餐会に招待される。作品は国立美術館に収蔵された。15年、NAC(在仏日本人会アーティストクラブ)主催展示会にて<パリ日本文化会館・館長賞>受賞。他。