アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「精神科医のニア・ミス」No.106

八幡平『ドラゴンアイ』 ~犬と自粛生活~

行きつけのテニスクラブもスポーツジムもコロナで営業自粛ときて私は公園を歩くしかなかった。幸い拙宅から徒歩または車で10分程に市立・県立公園が5つもあり大助かりである。だが人口減クマ天国の秋田では早くもクマ出没警報だ。

しかし今や熊よりマスクが多い。「公園でクラスターが発生した例はない」と診察以外はマスク拒否の私を家人は非難する。ノーベル賞の中山伸弥教授はコロナで死ぬ日本人が少ない原因をファクターXと呼ぶ。女らの口やかましさもⅩか。

だがわが家の悩みは熊でもマスクでもない。チワワのチコ2才♀3㎏弱だ。家の前を通る人や犬・猫に吠え威嚇する。おまけに敏捷で、相手かまわず飛びかかろうとし何度か危険な場面もあった。娘が強く抱っこしても他の犬が目に入るや瞬時に凶暴化し、娘の腕は生傷が絶えない。悩んだ末、トレーナに出張指導を依頼した。が、無駄であった。先日はついに烏の群れに襲いかかろうとリードを振り払い家人を唖然とさせた。

人と犬が見つめ合うと双方の脳に気分を和らげるオキシトシンが噴出し、犬も穏やかになるという。そこで散歩中、人や犬とすれ違う度に私は身をかがめてチコに語りかけた。「おとうさんの目に集中しろ!」するとチコの関心が私に向かい、好結果を得た。もっとも、チコはオキシトシンや「集中!」より私の大声に驚いただけかもしれない。

敵意を持って相手を睨むことを、眼(がん)をつけるといい、サルの社会では目を合わせた瞬間に互いの力関係を察し、ケンカを避ける場合が多い。だが見極めが下手な人間は命を賭して戦うことがあり、チコも力関係に鈍のようだ。

目といえばルーベンスとフランシスコ・デ・ゴヤの同名の絵『わが子を食らうサトゥルヌス』。ルーベンスの方は食われる子の怯えた目が、200年後のゴヤの方は食う親の目が鬼気迫る。NHKの叱るチコちゃんに似た目で今日もチコに吠えられ、長女が撮影してきた八幡平の『ドラゴンアイ』(写真)にも平気なチコ。いつか鬼気迫る目にあわせてやる!

20-06-10 レター49

鳥海山・元滝伏流水に至るまで何人何匹に吠えたことか…

大学6年の末っ子に潟上市よりコロナお見舞いの知らせ

その結果いただいた秋田名物

油断状態のチコは、ま、サマになるのだが

尾根白弾峰

尾根白弾峰(佐々木 康雄)

旧・大内町出身 本荘高校卒

1980年 自治医大卒

秋田大学付属病院第一内科(消化器内科)

湖東総合病院、秋田大学精神科、阿仁町立病院内科、公立角館病院精神科、市立大曲病院精神科、杉山病院(旧・昭和町)精神科、藤原記念病院内科 勤務

平成12年4月 ハートインクリニック開業(精神科・内科)

平成16年~20年度 大久保小学校、羽城中学校PTA会長

プロフィール

1972年、第1期生として自治医科大学に入学。長い低空飛行の進級も同期生が卒業した78年、ついに落第。と同時に大学に無断で4月のパリへ。だが程なく国際血液学会に渡仏された当時の学長と学部長にモンパルナスのレストランで説教され取り乱し、パスポートと帰国チケットの盗難にあい、なぜか米国経由で帰国したのは8月だった。

ところが今の随想舎のO氏やビオス社のS氏らの誘いで79年、宇都宮でライブハウス仮面館の経営を始めた。20名を越える学生運動くずれの集団がいわば「株主」で、何事を決めるにも現政権のように面倒臭かった。愉快な日々に卒業はまた延びる。

80年8月1日、卒業証書1枚持たされ大学所払い。退学にならなかったのは1期生のために諸規則が未整備だったことと、母校の校歌作詞者であったためかもしれない。

81年帰郷、秋田大学付属病院で内科研修を経てへき地へ。間隙を縫って座員40名から成る劇団「手形界隈」を創設、華々しく公演。これが県の逆鱗に触れ最奥地の病院へ飛ばされ劇団は崩壊、座長一人でドサ回り…。

93年に自治医大の義務年限12年を修了(在学期間の1倍半。普通9年)。2000年4月、母校地下にあった「アートインホスピタル」に由来した名称の心療内科「ハートインクリニック」開業。廃業後のカフェ転用に備え待合室をギャラリー化した。

地元の路上ミュージカルで数年脚本演出、PTA会長、町内会や神社の役員など本業退避的な諸活動を続けて今日に至る。

主な著作は、何もない。秋田魁新報社のフリーペーパー・マリマリに2008年から月1回のエッセイ「輝きの処方箋」連載や種々雑文、平成8年から地元医師会の会報編集長などで妖しい事柄を書き散らしている。

医者の不養生対策に週1、2回秋田山王テニス倶楽部で汗を流し、冬はたまにスキー。このまま一生を終わるのかと忸怩たる思いに浸っていたらビオス社から妙な依頼あり、拒絶能力は元来低く…これも自業自得か。