若いころは新薬の名称も1、2度で覚えたものだが、ジェネリックを強要する国の方針で今は薬も化学名で、例えば花粉症薬アレグラはフェキサフェナジンと書かねばならず老医師には辛い。後期高齢者運転免許更新で近々認知検査を受ける私は短期記憶力が衰え、甚だ心配である。
学生時代、森岡先生が自治医大教授だった第1外科のカンファレンスでは、若い医師が担当患者の検査データなどを暗唱して発表していた。帰郷して地元の大学病院の内科医局カンファレンスで私がカルテを持たずに発表したら、内容を間違えたらどうする、カルテを見て説明しなさいと先輩たちに叱られた。その方が楽なのですぐ従った。所変われば…。
森岡先生の教授回診は、事前の検討会で患者の主治医が病状や治療方針を説明し、病室の入り口でその内容を再確認して主治医たちは廊下に待機させ、学生だけ連れて病室に入った。そして先生は、「すみませんが学生たちにお腹を触らせて下さい」と患者に頭を下げておられた。破傷風患者の病室前では、大きな音を立ててびっくりさせると痙攣を起こしかねないとおっしゃり、学生たちにヒソヒソ声で患者から罹患した経緯を尋ねさせた。
秋田の教授回診では主治医らだけが病室に入り学生たちを廊下で待たせ、時々「こんな下手くそな(レントゲン)写真はダメだ!」と怒鳴り声が響いていた。なるほど、所変われば回診も…。
関東労災病院で働いていた他大学卒の友人は、森岡院長の回診は変わっていたという。白衣を肩にひっかけたラフな格好で患者と握手したり冗談を言って笑わせたり、少しもエラそうでなかった、質問された主治医が返答に窮すると先生は決まって「患者さんは弱い立場なのだから親切にしなさいよ」とおっしゃるのだったそうだ。
今は精神科の私も内科時代に病棟回診では患者と握手した。看護師も最初はびっくり。「尊敬する恩師の真似です。フランスでは診察前に患者さんと握手するのが普通らしいよ」と応えたが、本当かどうか。フランスの介護法「ユマニチュード」の4本柱は、見る、話す、立つ、触れる、だから間違いでもないだろう。いずれにせよ根本は「親切に」―。
若いころフランス留学された先生は、「米国帰りの外科医は手術が速くて格好よかった。典型が東大のK教授で、でもオペが終わるとすぐ術場からお引き取り願って我々が縫合をやり直したものだ。フランス外科は手術が遅いといわれるが手技は丁寧で確実」ともおっしゃっていた。
大学内では学生を「~君」とか呼び捨てにする先生は学外のレストランや学会場では「~さん」「~先生」と呼ぶ。不思議に思いある日質問したら、「君らも医師になれば先生だ。落第生でも外でそう呼ぶのが礼儀だよ」と応えられたのでびっくり。ナイフとフォークを操りコーヒーを飲む先生の繊細な指が今でも眼に浮かぶ。繊細さは人間関係でも同じだった。<2026/6/18>
願人踊り(今年5月5日 秋田県八郎潟町)
山賊の定九郎が与一兵衛爺に金を出せと迫るがどっこい…
日赤医療センターで生まれた娘の母親は院長だった森岡先生に丁重に扱われ恐縮至極であった。この子ももう中学1年生。
山形の酒「初孫」に手を出す生後半年の我が初孫

