『もののけ姫』 97・9・5
『もののけ姫』っていうアニメがヒットしてるそうだが、今の若い連中に「もののけ」って分かんないだろうなア、と私。「アラ、お姫さまの名前じゃないの?」との妻の答にただ唖然。という話を回覧板を届けに来た隣のオバサンにしたら、「どんな障害物もはね除けて一途に進んでゆく主人公のお姫さまのこと」とのたもうたので呆然とした。さらに、簡易保険金の徴収に来た老齢の元教師に聞くと、「そう言われてみると、はて何でしょうねエ?」との返事で私は遂に腰を抜かした。
だがある日、病院の待合室で新聞を読んでいるとき、普段は何気なく見過ごしている漢字のうち、訓読みとその意味の分からないものが相当あることに気づいた。例えば、「逮捕」の『逮』、「誘拐」の『拐』、「刑法」の『刑』、「評決」の『評』、『岐阜県』の『阜』、「拉致」の『拉』、「準備」の『準』、「俳優」の『俳』、「権利」の『権』・・・
人を笑ってはいけない。諸賢には既に自明のことであろうが、浅学非才の私には手痛いしっぺ返しとなった。自戒、自戒。
『謀略説の数々』 97・9・19
ダイアナ元皇太子妃の事故死を巡り、わが家への客人の間で、あれは謀略だとの説が渦巻いている。曰く「M5が車に細工したのさ。無論フランス政府も承知」。曰く「いや、トンネルに入る瞬間、ゴルゴ13がタイヤを打ち抜いたんだ」。曰く「やはり、ボンドが噛んでいると考えるのが一番自然だ」。曰く「CIAさ。何と言っても謀略には一日の長があるからね。英米の関係を考えればこの位の協力は何でもない」
その根拠は共通している。伝統ある英国プロテスタント教会の盟主をもって任ずる英王室が、かつて槙民地であった地のイスラム教徒一家と、間接的とは言え姻戚関係に入ることを黙って認めるはずはない、というものである。将来王となるべき男児2人を設けており、既に用済みであったという事情もある。
さらに、英国王室は莫大な報酬を約束してパリにブラック・ジャックを待機させていた。だが、ダイアナの命のみを救えという指示に憤然として去った、と言われている。用心棒氏が記憶喪失を装っているのは当然である。
妄説は、何%かの事実と同時に、庶民の期待を含んでもいる。
『牧野博士の主題による変奏曲・彼岸花』 97・9・19
福田農場からは不知火海が一望できる。その彼方には天草の島々が薄く霞む。路傍には彼岸花。
チッソ水俣工場は見えない。あらゆる生きとし生けるものの命を封殺して沈下を続ける埋立地も。
乱れ咲く足許の死人花と、薄青い島影を交互に見詰めながら、水俣病の存在すら知らずに亡くなった何千、何万とも知れぬ貧しい人々を思い遣ったことがある。
父の何代前に人吉近辺に渡ってきたか、今では確認のしょうもない。しかし、紛れもなく父に連なる何人かの天草の縁者が水銀に殺された。魂鎮め・曼珠沙華に合掌

