アートセンターサカモト 栃木文化社 BIOS編集室

「ビオス電子版スペシャルトーク」No.10

「文化資源の掘り起こし」―栃木市 鈴木俊美市長 × 下野手仕事会 萩原幹夫(樽)・横山一志(栃木線香)・田中梅雄(和提灯)・川原井與一郎(つが野焼)―

栃木市は栃木県の南部に位置し、西には「三毳山」「太平山」、南には「渡良瀬遊水地」など県南のシンボル的な自然景観と「渡良瀬川」「思川」「巴波川」「永野川」などの豊かな河川を有している。江戸時代、日光例幣使街道の宿場町として、また巴波川の舟運により商人町として賑わい、見世蔵や土蔵が軒を連ね、栃木県の政治、経済、文化の中心として栄えた商都であった。2014年(平成26年)4月までに旧1市5町が合併、山、里、平地の自然環境に恵まれ、米、果物など農産物の一大産地にもなっている。また、自動車道、鉄道の陸路交通の結接点としても、産業、観光に有利な市として発展している。

今回鈴木俊美市長を、伝統工芸者下野手仕事会の萩原幹夫さん(樽)、横山一志さん(栃木線香)、田中梅雄さん(和提灯)、川原井與一郎さん(つが野焼)の4名が訪問して、栃木市の伝統文化を中心にお話しを伺った。

鈴木俊美市長

取材の様子

次世代を担う子どもたちの伝統文化との関わり

市長 子どもたちに地域の伝統芸能や文化を学んでもらおうという教育はすでに行われておりますが、社会科の副読本を活用して、小学校3、4年生で学ぶことになっています。市内各地域で行われている行事や祭りの様子を紹介するとともに、そこに携わる地域の方の思いや考えも記載しており、ふるさとの伝統を大切に思う心を育もうとしています。

また、市の教育委員会独自の制度として、学校、家庭、地域が連携・協力し、「とちぎ未来アシストネット」という事業を進めています。多くの地域の方が学校支援ボランティアとして、子どもたちの学習の充実などを図るために活躍されています。

その中に子どもたちが地域の伝統文化を学ぶ体験活動を支援する活動もあります。和太鼓やお囃子については、地元の方が直接演奏の指導を行っています(栃木地域の国庁太鼓など)。都賀地域の杖術といったその地域独特の伝統文化を学ぶことや、茶道・生け花・水墨画といった日本文化を学ぶこともボランティアの方の協力を得て行っています。今後、さらに「人から人に伝える伝統文化のよさ」を大切に考え、地域の方のボランティア支援を得ながら、子どもたちの体験活動の充実に努めていきたいと考えています。

萩原 私も栃木の伝統工芸を子どもたちに是非伝えていきたいと思っています。先日の「県民の日」に山車会館前で「樽」を作る実演をさせていただきました。「樽」を製作する際に竹を加工することをやってますので、余った材料などで地域のお祭りなどには、子どもたちに昔ながらのおもちゃの竹トンボなどを作って楽しんでもらったりしています。

横山 先日新聞で取り上げていただきましたが「線香」も、やはりみなさんに「栃木市の線香」として知っていただく機会がありました。お線香をもっと身近な物としてお使いいただけるような物として作っていきたいと思っています。

市長 最近では有名になりましたが白いお線香がありますね。

横山 はい。若い方にも使っていただけるようなお香をと思って白いお線香や、色とりどりの自然な香りの良いお香なども作っています。

田中 「提灯」は、地元の小学校の高学年の伝統工芸見学ということで、毎年作業場に子どもたちが訪れています。とちぎふるさと子ども観光大使の藤岡地域は提灯の絵付け体験ということで三年目になります。おかげさまで好評で毎年人数が増えています。そういうことを通して子どもたちに提灯づくりの大変さとか、藤岡にこういう提灯屋さんがあるんだよって知ってもらっています。あとはイベントなどで積極的にピーアールしていくってことでしょうか。4月にオープンした「コエド市場」でも、実演をやらせていただき観光客の方に知っていただいたのでありがたいことだと思っています。提灯を「とちぎ小江戸ブランド(www.tochigi-brand.jp/)」の一つとして取り上げていただいています。

川原井 「つが野焼」は、まだまだ知られていませんが、自然の植物の葉を使い模様にして製作しています。ですから葉脈まできれいに出ています。これは栃の葉なんですが、県木ですし葉は特徴のある美しい形なので活用しています。おかげさまで結構人気がありますね。私は「みかも焼き」から独立して現在藤岡地域に工房を持っています。

市長 そうですか。みなさんの伝統工芸も子どもたちに、もっともっと伝える機会を考えなければと思っています。

萩原幹夫さん

横山一志さん

栃木線香

和提灯

田中梅雄さん

つが野焼

川原井與一郎さん

文化資源の掘り起こし

市長 本年3月に『文化振興計画』を策定いたしました。計画では、施策の方向性の柱として、「文化財等の保存と活用」、「郷土芸能等の継承」を掲げているとともに、各地域の文化資源を活かし個性豊かな地域づくりを推進するため、施策の方向性に沿って「各地域における文化振興の施策」を掲げております。

各地域には、先人が育んできた多様で個性的な文化が息づいており、各地域で郷土芸能の発表会や遺跡・史跡等を巡ってのイベントや学習会が開催されており、活動への支援とともに後継者育成の支援にも力を注いでいるところです。今後は、市全体での郷土芸能発表会なども開催する予定です。

また同時に、互いに各地域を理解してもらうことも必要ですので、文化に関するガイドブックを作成し、それを基本書として各地域の文化について学ぶことのできる「とちぎ文化講座」や「文化検定」などを実施しております。

また、計画策定の中でも「文化資源の掘り起こし」が課題として挙がり、課題解決に向けた施策として、各地域の文化資源を調査しリストを作成したうえで、文化財として指定することのできないレベルの文化資源であっても地域として大切にすべきものを市民と一緒に選出し、保護・活用していくための栃木市独自の文化財登録の仕組みをつくることを謳っております。

例えば市の東の方に国府(こう)地区というところがありますが、奈良・平安の頃に、今の下都賀という辺り一帯の中心地として、字の通り国庁が置かれていた場所です。その近くに、下野市になりますが国分寺、国分尼寺がありました。付近一帯が古の中心地であったこともあり、室の八嶋と呼ばれる枕詞にも使われるような地名もありますし、東山道の跡もあります。そういうものをもっとみなさんに知ってもらう必要があるなと思います。

萩原 市の歴史が古いだけに文化遺産も沢山ありますね。新栃木駅前の地域に住んでいるのですが、私の樽の材料はすぐ近くで調達できます。竹や杉は近くの出流山や思川流域などから手に入れることができます。地元の資源で伝統工芸品を製作できることが継承できる条件のひとつだと思っています。

横山 お線香を作るための原料としては、海外のものと国産のものとの両方を使用していますが、作り方は昔からの伝統的な栃木市のお線香の作り方です。これからもさらにいいものを作って、次世代にのこしていきたいと思っています。

田中 藤岡はご存知のように渡良瀬遊水地がラムサール条約に登録されまして、市でもハートランド構想など計画を進めていると思うのですが、より多くの人たちに来ていただけるような指針を取っていただきたいと思っています。藤岡に宿泊施設がないので、地元としては宿泊施設があれば、もう少しいい経済状態となり得るかなとも思っていますし、また、人の流れも違ってくるのかなとも思っています。地元としては歴史、文化の保存と継承を工夫しながら進めていただきたいと思います。

川原井 伝統工芸品としての焼き物が普及していく方法の一つとして、例えば旧1市5町に窯を作っていただいて子どもたちに教えて行く機会が与えられればと思っています。子どもたちに陶芸教室、例えば大平地区で行ったような教室開催などをどんどん普及させていったら、地域の皆さんも関心をもって後継者なども出てくるのではないかと思っています。

栃木市の見どころ(市長に代表してお話していただきました)

市長 まず今日の皆さんとの関係で申し上げれば、やはり栃木市は古い街並み、蔵などが今でも多く残っているところという意味では、栃木県内で初めて重要伝統的建造物群保存地区に文化庁から選定を受けた嘉右衛門町地区があります。ここには古い蔵の街並みが多く残っています。このほかにも蔵の街並みが色濃く残っているエリアがあります。

ここから「蔵の街とちぎ」というキャッチフレーズも出てきています。最近でも多くの映画やテレビの撮影場所に使われていますが、街並みそのものの魅力というのをぜひ知っていただきたいですね。市内の真ん中を流れる巴波川に舟を浮かべて、川の中から土蔵などが連なってるところを見ていただくのも大変人気があります。

また、栃木市は喜多川歌麿ゆかりの街です。歌麿が豪商から招かれ、この栃木に滞在をしたのは間違いのないところでして、その時に描かれたのであろうというのが「雪月花」の三部作で、肉筆画が残されています。絵の中に栃木の豪商の「九枚笹家紋」が女性の袖に描かれたりしていることもあります。栃木市の狂歌師としては有名な通用亭徳成(つうようていとくなり)の歌が浮世絵には必ず出てきます。栃木市には「雪月花三幅」の中の2つの高精細複製画があります。「品川の月」と「吉原の花」で本物はアメリカにありますが、限りなく本物に近く複製にしたものを栃木市が所有しています。「深川の雪」がこれまで発見されていなかったのですが、ついに昨年発見され、箱根の岡田美術館で公開されました。「深川の雪」についても複製画を作成することにご了解をいただいておりますので、これが出来上がりますと複製画とはいえ「雪月花三幅」が全部揃うのは本市が初めてということになります。このように喜多川歌麿とゆかりのある街だということもぜひ知っていただければと思います。

国際的に重要な湿地としてラムサール条約湿地に登録された渡良瀬遊水地は、本州最大のヨシ原が特徴で希少種の動植物も多く、四季折々に美しい姿を見せます。これほどの豊かな自然環境を維持している地域は限られており、大変貴重な「自然の博物館」です。

広大な渡良瀬遊水地の中では、年間を通して豊かな自然を活かしたスカイスポーツ、ウォータースポーツが楽しめます。

農産物としては栃木市で誕生したイチゴ「とちおとめ」や新品種「スカイベリー」は市場でも高い評価を得ています。また、太平山南山麓に広がる一帯は巨峰をはじめとするぶどうの一大生産地としてシーズンにはたくさんの家族連れがぶどう狩りに訪れています。

萩原・横山・田中・川原井 栃木市の文化と見どころの豊かさに改めて誇りを感じます。本日はお忙しいところをありがとうございました。これからも栃木市の伝統工芸の保持と継承のために私たちも頑張りたいと思います。市のサポートも何卒よろしくお願い致します。

サマーフェスタinいわふね

下野国庁前殿(復元)

国庁まつり

まるまるまるごとつがまつり

巴波川舟行

渡良瀬遊水地

鈴木市長と対談を終えて

構成:ビオス編集室(2015年5月収録)

栃木市長・鈴木俊美

昭和25年7月10日生まれ。昭和41年3月、大平町立中学校卒業。昭和44年3月、栃木県立栃木高等学校卒業。昭和49年3月、中央大学法学部卒業。昭和55年4月、弁護士登録。昭和59年1月、四谷中央法律事務所創設(東京都)。平成11年4月、栃木県議会議員就任。平成12年9月、大平町長就任(3期)。平成22年4月、栃木市長就任(現在2期目)。

樽・萩原幹夫

昭和27年、栃木市生まれ。同51年、23歳で家業の樽屋に就業、同58年、野田市の玉ノ井芳雄氏に入門。平成7年、栃木市民文化賞受賞、同13年、栃木県芸術祭彫塑部門奨励賞、同15年、全国伝統工芸品公募展生活賞受賞など多数受賞。同17年、析木県伝統工芸士に認定。なお、写真の腕前もプロ級。

栃木線香・横山一志

昭和38年、栃木市昭和町に一心堂二代目横山秀一の長男として生まれる。大学を中退し、父秀一について線香製造を修行する。平成17年、栃木県伝統工芸士に認定される。

和提灯・田中梅雄

昭和35年、藤岡町(現栃木市)生まれ。中学生のころより父義雄につき、色付けなどの作業を手伝う。高校卒業後、父から本格的に和提灯作りを習う。修業後、田中提灯店4代目を継ぐ。平成19年、栃木県伝統工芸士に認定される。

つが野焼・川原井 與一郎

昭和27年、岩舟町生まれ。同45年、父に師事、陶芸を始める。同59年、陶壁作家藤原郁三氏に師事。同62年、大平町に築窯。平成10年、現在地に移転。