
「飲食店主が弁護士に 十数年の苦学実り開業」。1957(昭和32)年の下野新聞には、二足の草鞋(わらじ)を履く石川浩三氏の清々しい笑顔が掲載されていた。
氏は1924年生まれ。生活苦で13歳から働き始め、14歳から中島飛行機製作所に就職した。太平洋戦争で何度も空襲を経験し務めていた製作所も全焼。この時の極貧生活と戦争体験が、のちの弱者救済と平和運動へと繋がった。
21歳の時に終戦を迎え、弁護士になるために学業との両立で様々な職を渡り歩いた。そして司法修習生時代に、生活のために自らが食堂の経営者となった。
本書では、その人生の紆余曲折を「二股弁護士」として綴った本人のエッセイを再編している。
二足の草鞋はその後も飲食店主から建築会社社長や貸しビル業へと変化していったが、弁護士としての弱者救済の志は最後まで変わらなかった。立ち上げた法律事務所は、法の整備も十分ではなかった時代に、多重債務者を助ける「駆け込み寺」のような役割を果たした。本書では氏の生前の取り組みを知る寄稿者達の声が追悼集として掲載されている。
生涯続けたもう一つのライフワークとしての平和運動では、講演活動や毎年関係者たちに送る年頭挨拶のハガキを通して、反戦と核兵器廃絶を訴え続けていた。氏にとっての平和運動は、弱者救済という点で弁護士活動と通底していた。大正末期から昭和・平成・令和への100年を駆け抜けた弁護士の志は、今も若い世代に受け継がれている。

事務室にて。1958年(昭和33)

米寿のお祝い。2012年(平成24)
撮影:荒井修
書籍情報
・書籍名:100年を駆け抜けた弁護士 石川浩三 追悼記念誌
・編 纂:石川 史江(石川浩三弁護士次女)
・ 絵 :やまなかももこ
・発 行:(有)アートセンターサカモト
・〒320-0012 栃木県宇都宮市山本1-7-17
・TEL : 028-621-7006 FAX : 028-621-7083
・ISBN 978-4-901165-39-6
・価格:1,650円(税込み)